6日目の早朝、いよいよ私は夢に思い描いていたスタルンベルク湖畔の集落Berk ベルクを目指した。目的は、狂王ルートヴィッヒ2世が幽閉され謎の死を遂げたという歴史探訪ではなく、鴎外の小説「うたかたの記」の舞台を巡る文学散歩である。ドイツ日記で知られるように、鴎外はドイツ留学中にミュンヘンの大学に学んでおり、避暑のため度々この地を訪れていた。
　私たちはミュンヘン中央駅で荷物をコインロッカーに預けSバーンに乗った。Starnberg Nord（シュタルンベルク北）で下車し、バスに乗りベルクの町に降り立った。森閑としたベルク城らしき敷地はあるものの、門を入ることができないのでお城自体は認められない。敷地に沿って山の手側の山道を国王が最期を遂げたという湖畔を目指した。木柵があることから、この辺りがちょうどお城の裏手に当たるに違いないなどと推測をした。